Glycotechnology Laboratory
糖鎖科学研究所(2011–)
東海大学
細胞表層に存在する複合糖質は分化、免疫、様々な外来分子のレセプターとして等様々な形で生命にとって重要な役割を果たしています。このような現象をあつかう糖鎖科学研究のなかで、私達の研究目標はこのような“糖”に閉じ込められた情報を、化学の手法で分子レベルで解析・解明することです。
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マイクロリアクターの近未来
•「マイクロリアクターによる糖鎖合成技術:多様性へのチャレンジ」マイクロリアクターによる合成技術と工業生産, Science & Technology, 2009, pp188-197.
•「マイクロリアクター、並びに、それを用いた多段階酵素反応方法、及び、糖鎖合成方法」、発明者:蟹江 治、小野康成、大黒周作、北島元裕、出願者:三菱化学、特願2007―120089.
1996年くらいだったと思いますが、アフィメトの核酸のフォトマスキング技術と合成を融合した論文や、ゲルろ過チップの論文を見て、「未来が見える」とか言っていた頃にどうしても自分たちでもやりたかった記憶があります。
それから10年してようやく専門の研究員に参加してもらってmy versionを始めました。様々な非常に興味深い現象やアイデアはあるのですが、唯一の論文と、特許と、book chapterを書いただけでまたこの分野から離れざるを得ない状況となりました。皆さんの参考になればと願っています。
専門家にはしかられそうですが、分子にとってはマイクロ空間は限りなく広い空間です。私はマイクロリアクターにおいて見られる反応性や選択性等の通常反応との差は、追求すれば必ず単純な理由があると思っています。例えば、「微細流路」内で反応を行えば例えば単純に溶液と反応容器の関係を考えただけでも、表面積/体積の比が全く異なります。液−液分配の分配効率の関係と同じです。
私たちが2基質型の酵素反応をマイクロリアクター内で酵素を固定化して行ったときの「当たり前」の発見は、通常観測される生成物阻害が見られないこと。面白いですね。これは、基質や生成物と共に阻害を起こす生成物も下流に流され常にフレッシュな溶液が酵素に供給され続けるために起こる現象です。細胞内で糖鎖が合成されるのはゴルジ体内で、ここには「固定化酵素」と供に生成物阻害を起こす核酸をアンチポートする糖核酸輸送体が「好都合」にも存在しています。本当にそのような「絵に描いた餅」のような反応が起こっているのでしょうか?ゴルジ体はゴルジ博士が見た「例の形」とは限りません。流動的にダイナミックに変化するマトリクスです。
やる(検証する)べき重要なことはたくさんあるのですが極めて残念です。
今年の論文引用数は...
今年も年の瀬、早1年が過ぎようとしています。
私が三菱生命研に来てちょうど10年が経ちました。研究所は40年の歴史に幕を引こうとしています。経済だか、費用対効果だか、なんだか知りませんが、基本的には自分が納得のできる「仕事」を各々が行っていること、ただそれだけが大切です。もちろん個人差はあるでしょう。だからと言って、仕事量や質で優劣を付けることは、本当の意味での評価ではありません。私たち人類はもっともっと長い時間スケールで物事を考えなければいけません。本当のLIFEの質とは調和ではないかと最近思っています。
そんなことを考えながら、この1年を振り返り、たまたまElsevier journalのreviewerをした時に、Scopusで今年1年の自分のcitationを調べてみました。130程度でした。論文がまあまあ、認識されているということと思っています。
この数年は、特に重要な成果がまとまってきて「自信作」を出しています。とは言っても、私の研究の場合、引用されるのは出版してから最低でも1年経過してからですので、引用数は主にそれ以前のものと云うことになります。
ともあれ、1年の終わりにこのような研究を実際におこなってくれたメンバー各人に、また、そのような成果を引用してくださった研究者の皆さんにも感謝したいと思います。最近、シンポジウム講演等で必ず言うことがあります。それは、成果や評価や何よりもそのようなものを供に生み出し、そのような時間を共に過ごしてきた仲間が一番の財産であるということ。
経済に翻弄される愚かな者でありながら、それでも、本当はそんなことが大事なことではないと誰もが気付いている。迷わずそのようにしてまっすぐに進めば何も恐れるものは無い。
Comparative RP-HPLC for rapid identification of glycopeptides and application in off-line LC-MALDI-MS analysis
Top 25 Hottest Articlesに採択されました。
糖タンパク質のプロテアーゼ消化物中の糖ペピプドに由来するピークを特定するために2種類の緩衝液を用いて逆相カラムによるHPLCを消化物混合物に対して行いました。このとき、一方は通常使用されるリン酸緩衝液を、他方は、水酸基と反応しエステルを形成すると同時に負電荷を分子に付与するホウ酸緩衝液を用いました。これら両者の溶出位置の差から糖ペプチドピークを特定することにより、その後の質量分析法による配列解析を容易にすることができました。
論文引用動向.
多く引用していただいていることは知っていましたが、改めて皆さんに感謝。...それにしても国内評価がついてこない...
これからも地味にコツコツがんばります
まずはバントで出塁(就職)か ...かにえ
多くの引用に感謝.
学術雑誌に多く引用していただいていることは知っていましたが、成書にこれほど引用され、紹介されているとは論文執筆者本人も知りませんでした。みなさんに感謝します。ほとんどが日本語ではないですが...
これからもがんばります...かにえ
A proof of no anomerization in gas phase.
私たちは質量分析装置内(Mass spectrometer)でイオンが衝突誘起解離(Collision-induced dissociation)する際の詳細な解析を行っています。このときヘミアセタールにナトリウムが付加したイオンを用いて、気相においてはアノマー化(Anomerization)が起こらないことを突き止め、私たちが開発したSDC法(二つ下のコラム参照)を用いて証明しました。これは今後の質量分析法による立体配置の解析も含めた糖鎖構造解析において極めて重要な基礎となります。
この発見とアノマー異性体を見極める方法によりエンドグリコセラミダーゼの反応機序が立体保持型であるとことも知ることができました。
Details of glycoform of a large glycoprotein revealed.
ショウジョウバエの目(光受容細胞)に多く存在するケーオプチンと呼ばれる糖タンパク質は、視細胞の形を作り出すのに重要といわれています。この糖タンパク質を精製し、プロテアーゼ消化して得られる糖ペプチドを質量分析法により分析し、13カ所に及ぶアスパラギン結合糖鎖位置各々における糖鎖構造の多様性(グリコフォーム)の解析を半定量的に達成しました。この手法により今後多くの重要な糖タンパク質の配列解析が可能となることが期待されます。
Mass spectrometry tells you “pureness” of an unknown oligosaccharide sample.
多段MS/MS(MSn)の特徴を利用して、個々の物質が独自の活性化エネルギーを持っていることを見極める方法を開発してきました。SDC(Stage-discriminated Correlation)法と名付けた方法によれば、まったく未知サンプルが構造異性体の不純物を含んでいるかどうかを質量分析法のみで見抜くことができます。これは、質量分析法が発明されて以来初の成果です。
この方法は、あるサンプルを質量分析装置で解析使用するとき、前段階に非常に役に立ちます。解析を進めて行ったとしてもサンプルそのものが構造異性体の混合物の場合には、通常は何の情報も得ることができません。このため、HPLC等で純度を自分で確認する必要があるわけです。SDC法はHPLCを用いること無くサンプル中の同一質量を有する物質の混入について議論ができます。
実際、研究過程で市販の糖鎖が混合物であったことを見抜いたこともあり、実用レベルの方法です。
ただし、全くの未知サンプルに対していも議論が可能ですが、純度を決めるための方法ではありません。このためには「物質毎に異なるイオン化の効率の問題を克服する必要」があります。この問題克服のためのアイデアはありますので是非近々試してみたいと考えています。
注)この論文は受理されるにあたり「抵抗」に会いました(そう感じました)。もう一報一年通らない論文(PJAに掲載されました)があるのですが、ようやく理由が分かってきました。タブーに触れていました。「定義」によると「MS/MSとは、特定の前駆イオンをフラグメント化し得られたフラグメントを更にフラグメント化する」とあります。我々の視点は、前駆イオンが異性体混合物てある場合やフラグメント化の条件下で異性化の可能性がある場合には、得られたMS/MSスペクトルは異性体混合物のスペクトルとなる可能性があります。したがって、このような場合には、フラグメント化の条件下で異性化しないことを予め知っておかないと解析そのものの意義が損なわれてしまいます。そこで、前駆イオンをフラグメント化の条件下、一部分解し残存する前駆イオン(と同一のm/zのイオン種)をさらにフラグメント化して、この2段階のスペクトルを比較することにより異性化の存在を判別する分析法を開発しました。 したがって、私たちがおこなっている実験は、「定義からすると実験そのものが存在しない」のだというわけです。 もちろん定義には当てはまっていませんが、実験の内容から類推して拡大解釈できる範囲です。こんな単純な論理が分からずに規則をリジェクとの理由にするとは卑怯ですね。
Sequential enzymatic synthesis of tetrasaccharide in a microfluidic system.
Hot Articleに採択されました。
私たちはこのようなマイクロチップをもちいて、ゴルジ体内で進行する糖鎖の合成過程や様々な代謝系のシミュレーションが可能とすることを目指しています。
Stereospecific synthesis of hemiacetals in gas phase.
Blockbuster Paper
「一つの論文が過去七年の間に50回以上引用されたとき,その論文を Blockbuster paper と呼ぶ。」藤井 敏博、環境研ニュース14巻6号"研究評価"
これによれば、4報のblockbuster paperを持っていて誇るべきなのだとか。ピンとこない。確かにこれらの成果について招待講演は多かったが...そう言えば、確かに一つ学会賞をいただきました(ありがとうございます)。
「こんなこと」ならどんどんやるぞ!
Carbohydrate Research, 1993, 243, 139-164.
8回連続(1999ー2006)
Journal of the American Chemical Society, 1994, 116, 12073-12074.
10回連続(2000ー2009)
Congratulations !!!
Angewandte Chemie International Edition, 1996, 35, 2510-2512.
4回連続(2002ー2005)
Angewandte Chemie International Edition, 1998, 37, 1524-1528.
3回連続(2005ー2007)
うれしいのはこれらの論文の息が長いことですが、評価できるようになるまでに6年もかかってしまう。これでは現状の評価システムの中では生きていけないな(評価前にクビ...現実になるとは!)。解決策は、即座に引用されるような論文を書く(また、そのような研究を行う)こと。しかし、そうした論文は一般に短期間の評価にとどまります。これらは、どちらが優れているというものではありません。単にスタイルの違いですね。もちろん、できればその両者が達成できれば良い訳ですが、そうすればノーベル賞は簡単!?に取れることでしょう。
Chemoinformatics
見落とされた視点
コンビナトリアルライブラリーと構造情報:
コンビナトリアルケミストリーは、製薬分野においてbreakthroughとなり得る概念として注目された。定義は、分子に二つ以上の可変項を用意し、これらの組合わせにより多様な分子群を構築する方法。この方法により合成された化合物群をコンビナトリアルライブラリーと呼ぶ。コンビナトリアルケミストリーは、これに続くハイスループットスクリーニングとの対でしばしば用いられ、多くの化合物を組合わせの論理に従って合成し、効率良く医薬品シーズなどのスクリーニングをおこなおうとするものです。
コンビナトリアルケミストリーとハイスループットスクリーニングについては注目されますが、重要な要素が欠落してしまう欠点を方法論そのものが持っています。すなわち、「ヒット」化合物を探索するため、せっかく合成してもヒットしなかった物質についての情報を収集しようとしないわけです。特にスプリット&ミックスの手法によるコンビナトリアルケミストリーにおいては、ヒット化合物を含まないロットは「ゴミ」となります。
「どこに問題があるのか?」と、しかられそうですが、その考え方に問題があります。”標的がはっきりしていてそれ以外は興味が無い場合”はこれでよいわけです。合成した分子は、将来の財産としてとらえるべきではないでしょうか?そうでないと、都度コンビナトリアルケミストリーをおこなう必要ができてしまいます。なんとも効率がよろしいことです。
さらに、合成分子には様々な構造情報が埋没しています。このような情報を取得、蓄積することで、将来のシーズ探索に重要な知見を与えてくれるデータベースを提供してくれるはずです。一般的には、このような情報の取り扱いについてケモインフォーマティクスという言葉が定義されていますが、必然的にコンビナトリアルケミストリーとハイスループットスクリーニングで成立するシーズ探索の中での議論にとどまってしまいます。
私たちは、今日の技術のみに立脚して物事を判断しがちですが、明日の自分は別のことを望んでいるかもしれません。広い視野に基づいて研究活動ができる寛容な体制と洞察力が必要です。
❖日本薬学会130年会でポスドクであった大塚さんが講演ハイライトに選抜されました。
❖研究所の閉鎖も近づき引っ越しの準備です。サイトは維持しますが、今後の情報はGlycoaware.comでしかるべき時期に。
❖2004−2008年度研究の中間報告(pdf/969KB)と最終報告資料(pdf/2.9MB)<注意!ブラウザーで表示しようとするとスタックすることがあるようです。申し訳ありませんがダウンロードをお勧めします。>
❖第7回糖鎖科学コンソーシアムシンポジウムで構造研究について説明します(蟹江)。
❖久々にProposal(Floating Coral Reef Project)を追加しました。
❖我々の論文(Kanie, O. et al. Proc. Jpn Acad. Ser. B, 2009, 85, 204-215. 左の記事を参照)が、NASAとSmithsonian Astrophysical Observatory(SAO)がオペレートしているAstrophysics Data System(ADS)に登録されました!
❖Proceeding of Japan Academy, Series Bの表紙として採択され質量分析学会会長(和田芳直先生)のありがたい紹介文まで頂きました。 Kanie, O. et al. Proc. Jpn Acad. Ser. B, 2009, 85, 204-215. (左の記事を参照)Scienceより価値があるね!この論文は将来の基礎となると信じて止みません。Science, Nature, Angew Chem Int Ed, J Amer Chem Soc, Anal Chem...とにかく理解されませんでした。そんなことはもうどうでも良い。未来を作ろう
独自ドメイン「glycoaware.com」を入手しました
リーダーがAngew Chem Int Edのホームページでmost frequent authorsのリスト入りしました
“orthogonal coupling”(本サイトのページ)がGoogleで”評価”されました。
1/19の化学工業日報の一面にマイクロチップによる糖鎖の合成が掲載されました。
研究所は閉鎖だがお庭の松の剪定には余念がない...世の中そんなもの...か(5/25) もしかすると資産として売って資金の回収をするのかな?
研究所の解散をご存知の方は、「何すっとぼけたことを」と思われることと思います。何があろうとも「正義を貫く」ために気分を一新しようと思いました。
2000年になるころにラボを構えました。誠実に研究を行いようやく自らの基礎(立ち位置)を明確にできてきました。研究所の運営に、研究資金に、多くのお世話になった方々に感謝をしています。しかし、もしそれがあるとしても組織の論理は理解できません。率直な意見として、反社会性の意識が生まれる瞬間に立ち会わせていただけたと感じています。
糖鎖に関する特集号の表紙を描きました!!!
紹介記事もでています。
糖鎖の合成についてのタブーを正当化した論文ですので読んでみてください。立体非選択という選択をしました。
私たちがおこなっているのは、ただのライブラリー合成ではありません!コンビナトリアル ライブラリーです。酵素でできるものできないもの「すべて」含みます。
図書館は多くの図書を幅広く蔵書してますね。幅広い事がポイントです。蔵書が少なくても図書館には違いないかもしれませんが、特定の情報しか得られない可能性もあります。私たち現在の人類が限られた知識で考える有用物質だけが有用とは限りません。
さ、よ〜く考えてみよう
-----関連論文-----
(German edition: Angew. Chem. 2006, 118, 3935-3938.)
高分子の「特集:バイオ高分子研究の新潮流」において「展望」として掲載されました。
***産業応用や疾病治療に代表される、いわゆる目的を定めての研究ではない、私の「思い」を書きましたので読んでみてください。我々は無知であることを自覚する必要があります。遥かな真理に手が届く頃、自ずと応用分野が開けてきます。最大の問題は時間かもしれませんが
研究概要
研究のキーワード:
コンビケム糖鎖ライブラリーの合成
新しい機能解析法の開発
マイクロチップによる合成と解析
極微量糖鎖シーケンシング法開発
これらを総合的におこなうことで新しい地平を開拓します
=関連学問分野=
化学・分析化学・工学・生化学・分子生物学
日本糖質学会は飛騨の国でありました。(Photo taken by Ohtake-san.)
Link etc
International Carbohydrate Symposium 2010 in Tokyo
糖関連研究についてユニークな活動を行っています
主な内容:
Trends in Glycoscience and Glycotechonoly誌の出版
GlycoWord の制作
FCCAセミナー開催
川口吉太郎トラベル基金
たくさんのコラムがあります
IUPAC (International Union of Pure and Applied Chemisty)
インターアクティブ「バイオ・ゲノム用語集」(無料)あります
三菱化学生命科学研究所の「新体制」発足時(2005)の本をダウンロードできます
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蟹江治
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三菱化学生命科学研究所は2010年3月31日を持ちまして閉鎖となりました。
皆さんの永きにわたるご支援に感謝致します。
ありがとうございました
今後、理研でERATOプロジェクト(グライコトリロジープロジェクト)を推進していきますので、今後ともよろしくお願いします!
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