東海大学

工学部生命化学科 蟹江研究室

大学院工学研究科大学院総合理工学研究科

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蟹江教授について

糖をキーワードにとにかく新しい手法を開拓しています

私たちの体を構成する全ての細胞すべては核酸、タンパク質、脂質といった基本的な分子から成っています。糖や糖鎖も同様に重要です。これら分子は様々な局面で重要な役割をもっており全ての研究が重要と言うことができます。今だけを見ることなく過去も未来もみつめること、一点からの観察でなくあらゆる角度から物事をみつめることで

糖鎖の化学合成方法
糖鎖の化学合成は1970年くらいから急速に進歩しましたが、多様な反応を統一理解することは研究者にとっても至難の業でもありました。単純な原理を導 き、糖鎖の合成を簡単にすることができないか?との思いからグリコシル化反応の独立性を思いつき世界初のオルトゴナル縮合反応を発見しました(J. Am. Chem. Soc. 1994, 116, 12073)。この成果は今も引用され続ける息の長いものとなっています。計画を立てた時点で全て完結していましたが、実行には時間がかかります。じっくりと研究を進め一連の学術論文としてまとめました。オルトゴナル法は個相合成法に非常にマッチングが良く、糖鎖ライブラリーの合成を可能としました(Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 3851)。オルトゴナル法は非常に幅広い概念ですので様々な合成分野に波及しています。最近では細胞内での遺伝子の発現様式にまで拡張されています。

人工疑似糖タンパク質でウイルス感染阻害
私たちはタンパク質の立体構造について学びましたが、そのような構造を全く人工的に作り出せるだろうか?特に環境に反応して形を変える疑似糖タンパク質が 出来るだろうか?そんな興味からインフルエンザウイルスのヘマグルチニンとシアリダーゼの両タンパク質を阻害するポリマー化合物を合成しました(Angew. Chem. Int. Ed. 1998, 37, 1524)。この糖脂質結合ポリマーはそれだけでは数分子の塊を形成して水に溶けていますが、ウイルスと出会うと糖鎖がタンパク質と相互作用するのをきっかけにウイルスにまとわりつき非常に強い阻害活性を発揮します。さらにこのようなポリマー化合物がタミフルやリレンザといったウイルスシアリダーゼ阻害剤と協調的に働きより強いウイルス感染阻害機能を発揮することを発見しました(J. Antimicrob. Chemother. 2015, 70, 2797)。

分子のシェープシフター
誘導適合(induced fitting)は酵素と基質の関係として知られています。この現象を酵素阻害剤に適応したらどのようになるか?糖加水分解酵素の阻害剤として5員環アザ 糖を合成し、置換基を導入することで環構造の配座間のエネルギーが似通った状態に導くことができれば、複数の酵素を標的とするマルチファンクションな阻害 剤を見出すことができるかもしれません。そんな例として置換基によって阻害特性を変化させることが可能であることを示しました(Chem. Biol. 2001, 8, 1061)。見出した阻害剤には高い特異性で極めて強くNアセチルガラクトサミニダーゼを阻害するものがあり、これが血中のGalNAcaseを阻害するとがんの新しい免疫療法につながるため研究を行っています。

糖鎖の構造解析
糖鎖は結合位置、立体配置、また、分岐といったその他の生体ポリマーには無い構造特徴を持っているため、構造解析は必然的に難しくなります。鋳型依存の合 成ではないことがさらに拍車をかけます。なんとかして新しい視点を与えて構造が類似した糖鎖を見分けたいとの思いからエネルギー分解法を用いて詳細な研究 を行いました(Anal. Chem. 2006, 78, 3461)。この手法を応用すると、サンプルへの同じ質量の異なる分子の混入状態を確認することもできます(Carbohydr. Res. 2009, 344, 384)。さらに、一般的な光学活性分子の絶対配置の決定法の開発へも展開し様々な官能基をもつ光学活性天然物などの立体配置の決定に有効であることを示しました(Sci. Rep. 2016, 6, 24005)。

細胞内での糖鎖の合成制御
糖脂質や糖タンパク質の糖鎖は細胞内小器官であるゴルジ体で転移酵素の連続反応により合成されますが、この過程がどのようにして制御されているのか、ある いは、いないのかが分かりません。糸口をつかむためにケミカルバイオロジーの観点からERATO伊藤グライコトリロジープロジェクトとの共同研究により細胞内での糖脂質の糖鎖修飾を分子の構造とともに時間分解して「イメージング」することに成功しました(Anal. Chem. 2013, 85, 8475)。現在も様々な手法を駆使して研究を継続しています。

糖タンパク質の表面構造
糖タンパク質には糖鎖構造の多様性による多型が存在します。ポリペプチド鎖の特定のアミノ酸に糖鎖が結合していますが、一カ所をよく観察してみるとそこに は特定の糖鎖があるのではなく数種類の糖鎖が見出されます。これは分子毎に異なる糖鎖を持っていてそれらの集合を観察していると言うことです。また、合成 が完全な制御課にないことも意味しています。このため糖タンパク質の3次元構造解析は一般論として不可能です。この問題に対してERATO伊藤グライコトリロジープロジェクトとの共同研究で、また、その後は青森大学鈴木教授との共同研究でチャレンジしています。

糖と進化の謎に挑戦したい
生命存在の基本原理は見方によりいろいろありますが解糖系に始まる糖代謝とこれに基づくエネルギー分子の合成は極めて重要です。生物進化は地球環境の変化 に大きく影響されます。解糖系は基本的に嫌気的なプロセスですが続くクエン酸回路は好気性です。このことは環境に存在する酸素分圧にエネルギー代謝が依存 していることを意味します。なんとかして進化との関係について知りたいと思っています。

原始地球の分子進化に挑戦
どのようにして私たちの体を構成する分子の光学活性が「選択」されたのか等解明されていない謎は多い。アミノ酸も糖も原始地球環境で「合成」されたとされているが、なぜポリヒドロキシアミノ酸は存在しないのか?この問題にも挑戦したいと思っています。 使えるシリカ! 水による浸食に耐性のアフィニティー担体としてのシリカゲルを作り出すことができれば画期的だと思います。これは現実的なのでできたらのお楽しみ。